
★受領遅滞責任の法的性質
☆法定責任説【判例】
413条の受領遅滞責任とは、債務者が弁済提供すれば、以降、一切の債務不履行責任を追わない(492条)とすることとの公平の観点から、信義則上、法が定めた法定責任である。
[帰結]
1 債権者は受領義務なし
2 受領遅滞責任の内容は、債務者の弁済提供の効果を受忍するだけ
3 受領遅滞により、債務者に損害が発生しても損害賠償責任は負わない
4 受領遅滞があっても、債務者は解除できない
5 受領遅滞(受領拒絶・受領不能など)につき、債権者の帰責性は問題とならない
☆債務不履行説
413条の受領遅滞責任とは、債権者の受領義務違反であり、債務不履行責任である。
[帰結]
1 債権者には受領義務がある
2 受領遅滞責任の内容は、債務不履行責任となる
3 債務者に損害が発生すれば、損害賠償責任を負う(415条)
4 受領遅滞は解除原因の債務の不履行にあたり(541条)、債務者は解除できる
5 受領遅滞責任を負わせるためには、遅滞につき債権者に帰責事由が必要。
★共同抵当権の建物再築と法定地上権の成否
○前提となる事例
債権者(X)は、債務者(A)が所有する土地と建物に共同抵当権を設定した。Aはその後、建物を取り壊し、新しい建物を別途建築したが、Xは再築建物に抵当権を設定しなかったた。その後、土地の抵当権が実行され、競売により、Bが土地を買い受けた。
○問題の所在
同一の所有者が有する土地、建物に抵当権を設定し、競売により両者の所有者が異なる状態となった場合、『法定地上権』が成立する(388条)。形式的には、上記事例は、法定地上権の成立要件を満たしていそうにも見える。が、しかし、形式に判断してよいのか?建物を取り壊し、再築した場合にも法定地上権が成立するか、否かが問題となる。
○法定地上権が成立すると考えると.....
・デメリット
(1)本来なら、Xは「土地+建物」の価値からの債権回収を想定していたはずが、土地のみからの回収となるばかりか、土地が更地ではなく、建物のための法定地上権が成立した分、価値が下がり回収額が減ってしまうため、Xにとって不利益となる。
(2)競売により買受けたBは、法定地上権によって、土地の利用権を制限されるため、Bにとっても不利益となる。
(3)法定地上権が成立すると、土地の価値が下がり、買受人が現れにくくなるということは、競売実行の妨害となりうる。
・メリット
(1)再築した建物を収去する必要がなく、国民不経済の防止という388条の趣旨にも合致するし、なにより、Aにとって利益が大きい。
メリットに対し、デメリットが大きく、これは、なんとか法定地上権の成立を否定したい。では、どのように理由づけができるだろうか。
☆全体価値把握説【平9:判例】
Xの共同抵当権設定当時の頭の中は、「土地と建物を競売して、自分の貸したお金を返してもらおう」(合理的意思)と考えていたはず。この、「土地と建物」を厳密にいえば、「土地と土地を利用する権利付きの建物」であり、Xの共同抵当権は、この全体の価値を把握している(全体価値把握説)と考えている。
その後、建物を取り壊したため、建物に設定した抵当権は附従性により消滅する。今度は、「では、土地(更地)を競売して、債権を回収しよう」(合理的意思)とXは考えるはず。
ところが、そこにAが建物を再築し、これに対して、法定地上権が成立するとすれば、競売価格は下がり、Xの回収額は減少する。これは、Xに不足の損害を与えることになり、Xの合理的意思に反するといえる。
したがって、Xが再築後の建物に、同順位の共同抵当権をさらに設定したなどの特段の事情がない限り、法定地上権は成立しない。
☆個別価値考慮説
土地と建物は別個独立の財産である点を重視して、判例に対立する説。
この説のメリットは、上記『○法定地上権が成立すると考えると.....
』のメリット(1)。
どう見てもデメリットの方が大きいので、この程度に抑えればよいでしょう。
(法定地上権)
第388条 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
○趣旨
・建物収去などの不経済防止
・土地利用権の顕在化
○成立要件
1)抵当権設定当時に
2)土地上に建物が存在し、
3)土地と建物が同一所有者であり
4)競売により土地と建物の所有者が異なる状態になった
○効果
1)買受人に所有権移転時に
2)地上権が成立する
○判例による要件の補足・修正など
1)の要件について
・抵当権とは1番抵当権をいう
3)の要件について
・所有者が同一であれば、登記名義が同一でなくてもよい
・建物が共有で、共有者の一人が土地を所有している場合も同一といえる。
○例外
・土地が共有で、共有者の一人が建物を所有している場合、法定地上権は成立しない【判例】
(理由)共有土地に用益権を設定する場合、共有者全員の同意が必要。
法定地上権が成立するとすれば、共有者に不足の損害を与えるため。
○その他
・388条は強行規定のため、当事者間で388条の適用を排除する特約を定めても無効。
抵当権は設定してから実行までに10年とか20年とか長い時間が経過します。
さらに、使用・収益権は設定者に残されるので、その間に設定者によって目的不動産は、いろいろな変化が生じる可能性があります。設定当初にはなかったものが増えたり、設定当初にあったものがなくなってしまったり。。。
そのため、抵当権の及ぶ範囲をしっかりと決める必要があります。
そうしないと、一般債権者が不利益をこうむるおそれがあるからです。
●抵当権は付加一体物に及ぶ
民法には、付加一体物に及ぶとし書かれていません。「付加一体物」とは何なのか、ブレイクダウンしてみると、以下のようになります。
・付合物
不動産に従として付合した物のを「付合物」と言います。たとえば、玄関のドアのイメージです。
・従物
メインの物の所有者が、メインの物の効用をUPするためくっつけた物のことを「従物」と言います。たとえば各部屋のドアのイメージです。
抵当権は、付合物には効力が及びます。ところが、従物については、設定当時からあったものについては判例も及ぶといっていますが、設定後に付属させた従物については、認めていませんでした。ただ、最近では認める傾向にあるようです。
・従たる権利
借地上に立っている建物に抵当権を設定した場合の借地権が「従たる権利」です。
この、従たる権利にも抵当権は及びます。ただし、競売によって買い受けた人が地主に対しても借地権を主張できるかは、別問題です。
●果実は?
何度も書いていますが、抵当権は使用・収益権は設定者に残ります。なので、果実の収受権は設定者にあります。
しかし、弁済期を過ぎても債務の履行がされない場合には、つまり、抵当権の実行が可能となった時以降は、果実にも抵当権の効力が及ぶようになります。
●債権の元本の以外に利息も担保してもらえるの?
家を見ただけでは、抵当権がついているかどうかわからないため、抵当権がついているかどうかは登記簿を見る必要があります。登記簿を見ると、いくらの債権の担保としての抵当権なのか、元本についての記載があります。ところが、利息については、年○%としか記載されないため、一体いくらの利息が滞納されているのか知ることができません。そこで、利息や遅延損害金は合計で2年分までを担保すると決められています。逆に、いくらの利息が滞納されているかが明確に記載されていれば、不測の不利益をこうむることにならないので、発生した利息や遅延損害金を登記すれば、2年分以外の分も担保してもらえるのです。
抵当権は、債務者や設定者と債権者の意思表示のみで成立する、
約定担保物権です。
抵当権は、占有を移さず、設定者に使用・収益をさせたまま、
目的部の交換価値を把握し、優先弁済を受ける効力があります。
なので、見た目だけでは、その家に抵当権が設定されているか
どうか、わからないのです。
そのため、公示の役割が重要になります。
抵当権を設定できるのは、公示、すなわち、登記ができるものに限ります。
主なものは、土地と建物です。
登記ができれば、抵当権を設定できることになるので、
一筆の土地の一部や、共有持分についても設定することができます。
●抵当権の性質
担保物権は債権を担保するために存在します。
担保物権によって担保される債権のことを、被担保債権と言います。
抵当権も、被担保債権がなければ設定することはできず、
また、被担保債権がなくなれば、抵当権も消滅します。
これを、付従性といいます。
被担保債権を誰かに譲渡すると、設定された抵当権も一緒に
移転します。
これを、随伴性といいます。
被担保債権の一部が弁済されても、全部が弁済されなければ、
抵当権は、目的不動産の全体に対して実行することができます。
これを、不可分性といいます。
被担保債権の弁済期が過ぎても、履行されない場合、
抵当権を実行して、家は競売によって、誰かの手に渡ります。
そのとき抵当権者は、競売代金から優先的にお金を返してもらえます。
これを、優先弁済的効力といいます。
●物上代位
抵当権の性質として、物上代位というのがあります。
抵当権が設定されている家や建物の使用・収益は設定者に残されます。
設定者は、担保にしている家を、貸したり、売ったり、使ったりできるわけです。
また、使っていて、火災で燃えてなくなってしまったりする可能性もあります。
そういった、目的物の、賃貸、売却、消滅などによって、
家の持ち主は、家賃や、売買代金、保険金などを得ることになります。
抵当権者は、これらの、家賃や、売買代金、保険金などについても、
抵当権の効力として、優先弁済を受ける権利があります。
これが物上代位です。
競売などの抵当権実行では、裁判所などが管理してくれるので、
競売代金から、きちんと弁済を受けることができます。
でも、家賃や保険金などは、直接債務者に支払われるため、
債務者が使ってしまうかもしれません。
そのため、物上代位をするためには、差し押さえをする必要があります。
この差押えについて、論点となっています。
★差押えの法的性質(択一用)
●判例の考え方
抵当権は、目的物の滅失によって消滅するはずです。
それでも、保険金から抵当権の効力として優先弁済を受けたいのなら、
抵当権の効力を保存するための要件 として差押えをする要求している(効力保存要件説)
と考えます。
なので、差押えは、効力を保持するため、優先弁済を主張する抵当権者自ら行う必要がある
ということになります。
●別の学説
他方、抵当権の「交換価値把握」という性質から、物上代位は当然に認められ、
差押えなくても、効力は維持できるとも考えられます。
その場合の差押えの意味は何でしょう?
お金に換わると、債務者が勝手に使ってしまうかもしれません。
「ここから、私に弁済しなさい、使ってはいけないよ」と、
特定性を維持するという意味で差し押さえを要求していると考えます。(特定性維持説)
単なる特定性の維持ですから、誰が差押えてもよいことになります。
法律的には素人ですが、民法を面白い、知ってよかった~と感じてもらえるとうれしいです。