★共同抵当権の建物再築と法定地上権の成否
○前提となる事例
債権者(X)は、債務者(A)が所有する土地と建物に共同抵当権を設定した。Aはその後、建物を取り壊し、新しい建物を別途建築したが、Xは再築建物に抵当権を設定しなかったた。その後、土地の抵当権が実行され、競売により、Bが土地を買い受けた。
○問題の所在
同一の所有者が有する土地、建物に抵当権を設定し、競売により両者の所有者が異なる状態となった場合、『法定地上権』が成立する(388条)。形式的には、上記事例は、法定地上権の成立要件を満たしていそうにも見える。が、しかし、形式に判断してよいのか?建物を取り壊し、再築した場合にも法定地上権が成立するか、否かが問題となる。
○法定地上権が成立すると考えると.....
・デメリット
(1)本来なら、Xは「土地+建物」の価値からの債権回収を想定していたはずが、土地のみからの回収となるばかりか、土地が更地ではなく、建物のための法定地上権が成立した分、価値が下がり回収額が減ってしまうため、Xにとって不利益となる。
(2)競売により買受けたBは、法定地上権によって、土地の利用権を制限されるため、Bにとっても不利益となる。
(3)法定地上権が成立すると、土地の価値が下がり、買受人が現れにくくなるということは、競売実行の妨害となりうる。
・メリット
(1)再築した建物を収去する必要がなく、国民不経済の防止という388条の趣旨にも合致するし、なにより、Aにとって利益が大きい。
メリットに対し、デメリットが大きく、これは、なんとか法定地上権の成立を否定したい。では、どのように理由づけができるだろうか。
☆全体価値把握説【平9:判例】
Xの共同抵当権設定当時の頭の中は、「土地と建物を競売して、自分の貸したお金を返してもらおう」(合理的意思)と考えていたはず。この、「土地と建物」を厳密にいえば、「土地と土地を利用する権利付きの建物」であり、Xの共同抵当権は、この全体の価値を把握している(全体価値把握説)と考えている。
その後、建物を取り壊したため、建物に設定した抵当権は附従性により消滅する。今度は、「では、土地(更地)を競売して、債権を回収しよう」(合理的意思)とXは考えるはず。
ところが、そこにAが建物を再築し、これに対して、法定地上権が成立するとすれば、競売価格は下がり、Xの回収額は減少する。これは、Xに不足の損害を与えることになり、Xの合理的意思に反するといえる。
したがって、Xが再築後の建物に、同順位の共同抵当権をさらに設定したなどの特段の事情がない限り、法定地上権は成立しない。
☆個別価値考慮説
土地と建物は別個独立の財産である点を重視して、判例に対立する説。
この説のメリットは、上記『○法定地上権が成立すると考えると.....
』のメリット(1)。
どう見てもデメリットの方が大きいので、この程度に抑えればよいでしょう。
法律的には素人ですが、民法を面白い、知ってよかった~と感じてもらえるとうれしいです。